歯フッ素症になったAさん

中学生のAさんは、鏡を見るとき、いつも自分の歯にできている白い斑点が気になっていました。ちゃんと歯みがきもしているし、むし歯がたくさんあるわけでもない。でもこの白い斑点はかなりたくさんできていて、「一体なんだろう」と気になって何度も鏡をみていました。それに、永久歯がなかなかはえてこないことも心配でした。

ある日、そんなAさんの姿を見かけて、お母さんがこんな話をしてくれました。

お母さんはAさんや兄弟たちが小さい頃から、むし歯予防にとても気をつかっていて、熱心に歯みがきをさせていたそうです。そう言われれば、Aさんも外出先でご飯を食べた後、トイレで歯みがきをした記憶があります。

そして定期的に歯医者さんでフッ素を塗布してもらい、そのうち歯医者さんに勧められて、家庭でもフッ素塗布をしたり、フッ素洗口をしたりしていたのだそうです。

しかし、Aさんが小学校高学年になった頃、お母さんはAさんの歯の表面に、白い点々がたくさんできていることに気がつきました。歯医者さんにその原因を聞いたのですが、「う~ん」と言葉を濁して、教えてくれなかったため、お母さんは自分で調べて、フッ素に副作用があり、白い点々はそのためにできてしまったものであることをはじめて知ったそうです。

お母さんは、むし歯にならないように気をつかっていたこと、フッ素の副作用について歯医者さんから教えてもらっていなかったとはいえ、親が勝手にフッ素を使って、永久歯に白い点々ができてしまったこと、そしてそれは、自然に消えることがむすかしい事などを話してくれました。

それを聞いたAさんは、ボロボロと涙をこぼして泣き出してしまいました。

そして、こう言いました。

「ずっと永久歯が生えてこないから、この白い斑点なんだろうって思っていた。ちゃんと磨いているのに消える気配もないし、むし歯でもなさそうだし、気になって気になって仕方なかった。私はきれいな歯になりたいとずっと思っていた。悔しいけど、私はこのままの歯でいい。私の歯だから。お母さんのせいじゃないよ。私は大丈夫だからね。」


そう、歯はその人のものです。歯医者さんのものではありません。自分の歯に使われるものに副作用があるとしたら、その副作用を引き受けるのは、その歯の持ち主であり、歯医者さんではないのです。

フッ素を使いたい歯医者さんの多くは、「軽度の斑状歯(白い点々状のもの等 「歯フッ素症」の症状の一つ)は見た目だけのもので、問題はない」と言います。でも、歯の見た目が悪かったら、気になるのが自然な感情でしょう。見た目が悪いことを喜ぶ人はいません。それだけで精神的なストレスを抱えてしまうことになり、Aさんが長年気にしていたことを考えれば、例え軽度であっても「斑状歯」は見逃していい副作用ではないのです。

また、フッ素は、永久歯が生えてくるのを遅らせる、という副作用もあります。

Aさんは幸いなことに自分の歯の状態を、正面から受け止めてくれましたが、全ての子どもたちが同じ反応をするとは限りません。中には、白い点々を友達に指摘されたり、気にして人前で笑えなくなる子どもがいたとしても不思議ではないのです。